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心の毒 -『ボトルネック』 米澤穂信

 27, 2015 19:15
 「心のどくを消すほうほうはない」-。
 今日紹介するのは、青春の危うさと影を描き切ったこの作品です。

ボトルネック (新潮文庫)
米澤 穂信
新潮社
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 米澤穂信さんの『ボトルネック』。ミステリーというより、青春小説としての価値を持った小説だと思いました。金沢の暗い空の下で繰り広げられる、悲しすぎる1人の少年の物語です。




生きる意味



 2日前の記事で、私はこんなことを書きました。

まがりなりにも「誰かの役に立っている」「自分が必要とされている」と思うことで創造性のない日々にも意味を持たせています。


 自分が誰かの役に立っている、誰かに必要とされている、そう思うことによって人は前を向いて生きていられます。今日は、そんな思いが打ち砕かれたら・・・ということを考えてみたいと思います。

 この本で起こったことは、私が書いた文とは全く逆のことです。

 東尋坊で崖から転落して死んだ彼女、ノゾミに花を手向けていた主人公の嵯峨野リョウ。その時、ぴょうと海風が吹きました。風と共に、どこからかかすれ声が聞こえます。「おいで、嵯峨野くん」-。ふわり、とリョウの体が浮きました。リョウは崖を落ちていきます。

 ・・・リョウが目を覚ましたのは彼の地元、金沢市。今しがたまで東尋坊にいたのになぜ?困惑するリョウ。種明かしをすれば、そこはリョウのいない世界、パラレルワールドでした。リョウは自分の代わりに生を授かった姉、サキに出会います。そこから、リョウにとって地獄のような3日間が始まりました。

脆い自尊心



 リョウに「自分がいない世界」を見せていたのは、グリーンアイドモンスター(GEM)と呼ばれる怪物です。

グリーンアイド・モンスター・・・ねたみのかいぶつ。生をねたむ死者のへんじたもの。一人でいるとあらわれ、いろいろな方法で生きている人間の心にどくをふきこみ、死者のなかまにしようとする。心のどくを消すほうほうはない。(本文より)


 その心に吹き込まれた毒、というのが「自分のいない世界」を見せられることでした。ネタバレになるので詳しく言えないのですが、リョウは3日間、自分の代わりにサキが生まれてきた世界をさまようことになります。サキと一緒に元の世界に戻るために手がかりを探すのですが、リョウが見せられたのはあまりにも残酷な現実でした。

 自分の代わりにサキが生まれたことによって、あちこちで変化が起こりました。リョウの両親、兄、死んだ彼女のノゾミ、ノゾミのいとこであるハルカ、そして重要な伏線になる「イチョウの木」。「リョウがいた世界」と「サキがいる世界」では、それらの行く先が異なっていました。そんな違いを見せつけられて、リョウの中で「心の毒」が増幅していきました。

 ついに、リョウはある「恐ろしい結論」にたどり着きます。未熟ながらも精一杯に生きている「つもり」だったリョウ。一人の少年の脆い自尊心を打ち砕く、恐ろしい結論です。後味はかなり悪かったです。

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 この作品はどういう評価をされているのか、気になってたくさんのサイトを調べました。大きな特徴として、「読み手によって大きく評価が変わる」ということがありそうです。実際、アマゾンのレビューを見ても、星5つのレビューが多い中で、星1つのレビューもかなり目立ちます。

 評価が分かれる理由は2つありそうです。まずは、ミステリーとして読むかどうか、という点。伏線の見事な回収はありますが、ミステリーとしては辛口の評価が目立ちました。推理の要素があまりないからでしょうか。冒頭でも書いたように、青春小説として読むのがおすすめです。若さの危うさ、影といったテーマで読むと群を抜いた鋭さがありました。

 2つ目が大事なのですが、読み手がどのような青春を過ごしてきたのか、という点です。青春と一口に言っても、その中身は人それぞれだと思います。

 青春 青春 青春 青春

 青春の「青」に、皆さんはどのような色を浮かべられたのでしょうか。この小説は、読み手の青が反映される作品といってもいいかもしれません。作品のイメージは一番右の青です。抽象的な例えですが、青春と聞いた時に一番右の闇と影を抱えた青を浮かべた人は、主人公に大きく共感できると思います。

 

「どんなことが起きても、それを自分のことじゃないように受け止めることができる子」

ぼくも、ぼくなりに生きていた。別にいい加減に生きてるつもりはなかった。しかし、何もかも受け入れるよう努めたことが、何もしなかったことが、こうも何もかも取り返しがつかなくするなんて。



 主人公の描写です。「自分を見つめる」ことってとても難しいですね。しかも、まだ人間として固まりきれていない少年・少女の時期。青春とは、だれにとっても不安定なものだと思います。反抗期があって、大人を見下して、そして、自分がそんな見下していた「大人」に近づいていく・・・。そんあ青春を直視できずに、自分に背中を向けていたリョウ。そんな彼に、もう1つの世界が容赦なく襲いかかっていきました。

青色の結末


 作中で、「想像力」ということばがしつこいほどに登場します。あまりにも出てくるので、読み手も想像力を働かさざるを得ません。想像をしていくと、リョウが出した「恐ろしい結論」がぼんやりと見えてくるかもしれません。

 若い頃って、必要以上に悩んだり苦しんだりすることがあるのではないでしょうか。青春とは盲信です。馬鹿みたいに希望を信じることができれば、絶望に向かっていくこともできます。青春のガラスのような脆さを痛感する作品でした。

 ラストははっきりとは描かれません。「答えは、この本を読み終えた読者の中にある」、解説にはこう書かれていました。ラストはどう解釈すればよいでしょうか・・・。先程の青春のように、人によって浮かべる色は異なると思います(私は最悪なバッドエンドしか浮かびませんでした・・・)。

 ネタバレを最小限に書こうと思ったのですが、難しいですね。興味のある方はぜひ読んでみてください。後味の悪さは覚悟された方がいいと思います・・・。




オワリ


「リカーシブル」 米澤穂信さん
 米澤さんの作品は今回で2冊目でした。2冊読んで思ったのですが、この方は若い世代、青春に容赦がない人です。主人公を容赦なくズタズタにするスタイルは、なかなか読みごたえがあります。
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  •   27, 2015 19:15