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密やかなライフヒストリー -『人質の朗読会』 小川洋子

 20, 2015 00:36
 こんにちは、おともだちパンチです。今日でブログ開始1週間!訪問してくださった皆様、ありがとうございます。まだまだ駆け出しのブログですから、アクセスが1増えるだけで嬉しいのです。アクセスカウンターの数字が増えては頬を緩ませています。幸せ・・・(*^-^*)
 さて、今日は小川洋子さん「人質の朗読会」をご紹介します。小川さんの織り成す静かな物語に、少しだけ耳を傾けてみてください。以下、「人質の朗読会」のレビューです。

人質の朗読会人質の朗読会
(2011/02)
小川 洋子

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静かな雄弁



 小川さんの作品の良さは、と聞かれたら「静かなのに雄弁なところ」と答えます。静かなのに雄弁?矛盾する言葉ですが、何だか一番しっくりくるのです。ストーリーにはほとんど大きな動きがありません。人の存在感も希薄です。その代わり、「モノ」が雄弁なのです。小川さんの描く「モノ」の描写は綿密で、丹念で、丁寧で・・・。モノたちの声なき声をたどる気持ちで、一文一文噛みしめるように読む、そんな読み方をしたい作家さんですね。

激情の余韻



 「人質の朗読会」、などという物々しいタイトルがついた本作。ストーリーはタイトル通り、ゲリラに襲撃され、人質となった人々が、自らの人生について朗読していくというものです。なんとこの人質の8人、爆弾により全員が死亡してしまう(!)ことが最初に明かされます。そこからはいつもの静謐な物語が始まるのですが、壮絶な幕開けが余韻を残し、心に鉛が沈み込んだような気分で読み進めていきます。

 物語のテーマは「ライフヒストリー」ではないかな、と思いました。「歴史」などというと、何か大きな事件や出来事を思い浮かべてしまいます。しかし、ここで描かれるのは、それぞれの人物の、それぞれの人物だけの歴史。それによって世界が変わることはありません。語られているのは、名前も顔も知らない人との出会いや関わりといったこと。とりとめもないような、何でもないようなことなのです。それでも、人びとは語ります。自分だけの歴史を語ります。そこから見えてくるのは、広い世界で、それぞれの人間がそれぞれの歴史を生きていて、時々それらが偶然にも結びついているということ。こんな描写がありました。

僕はそこへ潜り込む。そこを丹念に探索し、痕跡を残さずに去ってゆく。校閲の仕事と同じだ。誰も僕の存在を気にしない。僕が去ったあとも、会は続いてゆく。



 線香花火のような、蛍の光のような、儚げでかよわい物語たち。そこには意味なんてないのかもしれません。しかし、そんな人々が、たまたま人質として一緒になり、物語を語っていく・・・。人間の人生の、美しいほんのひとかけらの部分に触れた気持ちです。

たった一行のこと



 小川さんの作品の雰囲気が分かる、印象的な部分がありました。その雰囲気、ぜひ味わってみてください。

まるで青年の一部分が、天に差し出されたかのようだ。青年から託されたものを身にまとい、その重さに畏怖を抱きつつ槍は震えている。青い空で銀色の直線がきらめいている。もはや青年は何もできず、無言でそのきらめきを見送る。槍は神の描いたラインをなぞってゆく。  ・・・・・  あの日は私にとり、会社を休んで槍投げの練習を見学した、という一行で片がつく一日だった。



 そうなんです、「一行で片が付いてしまう」ようなそんな物語。彼らの口から語られなければ、誰も知ることのなかった物語。何だか、この物語を読めたこと自体が奇跡のような気がして、本のページを閉じました。


うれしいニュース

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(2014年年間ランキング 3 →7位  #3 学びの原石 →10位)。このランキング、選考基準が一切わからないという謎仕様なのですが、自分の記事が注目されるというのはやはりうれしいです。これを励みにして、これからも質の高い記事が書けるように頑張ります。
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  •   20, 2015 00:36